ボ ル ド − 顛 末 記
 立林 英昭 (41法)
 ヤマドリのけたたましいなき声と「ズドン」となる鉄砲の鈍い音を朝のまどろみの中に聞く。朝市でこのトリと共に売られるリェ−ブルと呼ばれる野ウサギが吊されている光景がうかび「野ウサギのシベ」と呼ばれる赤ワイン煮込みの野性あふれる味は忘れがたい等々の連想がうかぶ。
 時は1988年、晩秋のボルド−。大西洋に注ぐジロンド川右岸にあるCotes de Blayeにある Chateau de Dubraud の一室である。
 このシャトウ−は1889年、マダム・デュブロ−によってはじめられ、ブライ地区の赤ワインでも最も味わい深く品位があり、87年にはAOCの格付けを得た。
 当時、英国と会社をやっており煩雑に英国と行き来した関係で、英国人所有のこのシャトウを度々訪れた。(ボルド−は12〜15世紀イギリス領となったこともあり、英国と関係が深い)シャトウ−の名前がドブロクに似ていて7万坪のvine-yard から年間17万本の赤ワインを生み出すプ−ル付きのシャトウ−。そしてすばらしい田園風景と人情に惚れ込み経営に参加することになった。
話の本題は、日本人向けにこのシャトウ−の利用権と収穫された赤ワインを小口化して売り捌き、一攫千金を得ようというプロジェクトの失敗談である。
 この企画をSデパ−トに持ち込んだところ大乗り気で、短期間で完売間違いなしとのこと。
 早速ボトルのラベルデザインをグラフィックデザイナ−の田中一光氏に相談、麹谷宏氏(デザイナ−、有名なワインコレクタ−)を紹介して頂き政策を依頼。
 程なく立派なラベルも出来、準備万端整い、いざ売り出しという直前、パリに長年駐在の同デパ−ト顧問のT夫人より本計画ストップされたしの報。
 その最大の理由は、「ワインはアセット・リキッド(液体流動資産)という経済用語を生んだくらい利益を上げることもあるが、何よりもシャトウ−とワインは混然一体となったフランス文化の中枢を形成し、真に文化そのものである。これを切りキザンで売るとは何事か。日仏の文化摩擦必然である」
 また、折悪しく日本男性がフランス女性を切りキザムという猟奇事件もおこった。
 かくて千金の夢は破れ、 かの国の諺、La verite est dans le vin(真理はワインの中にある)をかみしめる結果となった。
 バブル時代のお粗末な一席でした。
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