ある男との再会、そして緑と水と太陽と
早生 博之(S52 文)
5月 例年になく陽の光が少なく、風雨の強い日の多い月であった。
ほぼ毎日、今川3丁目の東京都立農芸高校に足を運んだ月でもある。理科系の科目が苦手の子供の頃であった。自然現象にもあまり関心を寄せることもなく。
当たり前のように社会人の道を歩む。そんな男が、正に厄年にほぼ一月入院を余儀なくされる。 よく言われることだが、退院後少し人生観に変化を持つ
「もう少し社会に役立つことができないものか」と。とは言え、具体的に何かが浮かんだわけではない。ただ何となく「地球や環境の話題」が気にはなりはじめたのは事実であった。
数年後、20数年振りにある男と偶然再会する。その男も厄年に病気に出会っていた。
「人生観が少し変わった」という点までは二人とも同じであった。異なっていたのは、彼は即行動したということ。地元の協力者を得て数年がかりで富士山のふもとの土地を火山灰地から農地へと改良、そしてその約10000uの土地に、すべてを自然エネルギーで賄う体験型環境施設を作り実践的な環境教環境教育を開始した。エネルギー効率を活かして廃屋の農家を蘇らせたセンターハウス、手作りのトイレと糞・尿すべてを堆肥にする仕組み、風力・太陽光発電、みみずのコンポスト、ビオトープ・・・食、住、水、光、風 自然循環の可能性を目の当たりにし、彼に協力する気持ちを強くした。
そして今、この男と「実践的に環境を考える」をテーマに互いに時間をつくり、ささやかではあるが厄年の思いを実践に移しつつある。

そのひとつが、杉並工業高校、農芸高校の先生、生徒との協働での「教室に緑のカーテン」という名のプロジェクトである。太陽の光と、雨水と、竹と、生徒達が選んだトマト、ぼっちゃんかぼちゃ、朝顔、ゴーヤなどで室内をより涼しくしようという試みを5月から始めたのだ。 晴れた日には、太陽光の力で雨水タンクに貯まった水を小さなポンプが地上から約3mの高さに汲み上げる。そして、学校の壁沿いに設置したパイプとースから四方に散水し達に水をかけ示唆を増す涼しさを増す。そんな姿が見られる。
つる性の植物が竹を一杯に蔽うとき、外からは緑と朝顔の原色が美しく、室内では涼しさを実感・・・をめざした実験である。
自然や物理に興味を持たなかった男が、一人の男との再会から 風 雨 太陽 緑の声を聞き始めたこと。これもまた生き物としての人間を含めた生態系の循環といっては大げさであろうか?
今日も自然に今川に足が向かう。

因みに進行中のプロジェクト費用の一部は、これもひとつの縁で(財)福澤記念育林会の助成金によらせて頂いたことを付言し拙い文を終わらせて頂くこととする。
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