私はチェロ
岡田 昌之(S35経)
私の生まれはイタリアのミラノです。ジョバンニ・グランチーノの手により1682年に産声を上げ、それ以来326年に渉り健康を保ち、今最高の状態にいます。今後まだまだ百年単位の活躍をしていく所存です。
 私の身体についてですが、身長は75.3センチ、スリーサイズは上から34・3、24.4、44.3センチのプロポーションで、自分で云うのも何ですが、美形と云われ慣れています。
さらに表板はエゾ松できれいな木目で覆われ、裏板はちょっと厚めの楓で作られています。そこには私の特徴である「鳥の目」が表れています。頭も同じ楓で美しいスクロール状です。身体の色はオレンジブラウンのニスが塗られています。
私は20年前に今の彼の処に参りました。前の彼はゴールドブラットさんというサンフランシスコ響の首席チェロ奏者の方でしたが、今の彼は全くの下手な横好きさんです。最初はなじむのに大変苦労しましたが今や半ばあきらめ状況で付き合っています。何しろ今の彼ときたら三田の学生時代に、パブロ・カザルスにはまってしまい、大学2年から習い始めた晩生なのでしょうがないといえばしょうがないですが、まあ努力だけは認めてあげてもいいかなと思い始めています。
 
本人はバッハの無伴奏チェロソナタ6曲を何とか死ぬまでに挑戦したいと意気込んでいますが、私からみれば無理、無理!分相応の小曲をこつこつ積み上げた方が正解と思うのだけど、本人はわかっていないのね。
だけど私にとってもいいことは相棒の弓がすばらしいの。弓はフランス物に限ります。1835年のニコラス・ヴォアラン。
チェロが他の楽器と違うところは、私と彼の接点が三ヶ所あるっていうこと。両膝の内側と胸、私の振動が全身に伝わるので彼はとても気持ちいいと思います。
私の年齢の四分の一強しか生きていない赤ん坊みたいな彼とは岡田昌之君で、これからも温かく我ままには付き合っていく積もりです。皆様も彼を応援してやって下さい。

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