リンゴと蛇、蜂
仁村 貞雄(S39経)
旅先の通りがかりで会話を交わしたのが縁で長野立科町リンゴ園のボランティアとなり6年経過しました。春先の受粉、花摘みに始まり、摘果、葉摘み、11月の収穫で1年の作業が終わります。
春先のリンゴ園は、遠くに雪の残る浅間を背景に爽やかな風が吹き、リンゴの花が樹海の如く広がります。作業は、花の香の満ちる木の中に首を突っ込み摘花、摘果で始まります。
そのリンゴ園で蛇に出会ったことはなく、昨年も何の不安もなく作業をしていたのですが、居ました。目の前30センチの枝に、ゆうに1メートルを超える大きな縞蛇がUの字で折り返して昼寝中。
蛇は別に嫌いではありませんが、さすがに声がでました。園主が優しく下ろそうとしたのですが、蛇は上に上にと逃げ、最後はてっぺんで風に吹かれゆらゆら。
ところが、一瞬目を離したらもういなかったのです。後日、空には真横の伸びる虹が出ました。きっと空に舞い登ったに違いありません。
秋の収穫作業は体力勝負、りんごが15〜20個入ったかごを抱え、終日、脚立の上り下りです。そんな時でも紅葉したリンゴの葉のグラデーションの例えようのない見事さに思わず作業がとまります。聞こえるのはヒヨドリを撃退する空砲の音だけ。でも敵はヒヨドリだけでなく蜂もそうです。
春先には花粉を運ぶ蜂もいますが、秋の蜂は困りものです。大きくて甘くて立派なリンゴを狙い撃ち。その見事な食べっぷりは冬支度のためでしょう。空洞となったリンゴは遅霜を避けるしばしの宿になります。
りんごの成長を待つ夏と、真冬、厳寒時の剪定には、ボランティアの出る幕はありません。今年も冬が去りまた春が来ました。しかし後継者がなく、私の通うリンゴ園があと何年あるか、その前に私自身あと何年通えるか不安を感じますが、秋にはまたあのパリッとした食感のりんごが食べられるように祈っています。


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