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 ナローボート運河の旅 
 野崎麻美子(S49文)
 七月の晴れた朝、英国バーミンガムからナローボートで運河の旅が始まった。チャーター期間は一週間。ボートのオーナー夫妻に朝昼の食事と操舵はお願いして、カントリーサイドの水辺と緑に囲まれてのツアーは、本当にのんびりしている。そして妻のあつ子さんが作る食事は絶品。つい食べ過ぎてしまう。
ボートは、横幅は狭いが、縦長で、ダイニングルームとキッチンは勿論、シャワールームも寝室のすぐ隣にある構造。プライバシーの保たれた部屋で読書するのも、ボートの舳先のデッキで日光浴するのも、その日の気分だ。
クルーズの速度は、自転車をゆっくり漕ぐ程度なので、ボートと並ぶように川べりを散歩するのにちょうど良い。ナローボートで休日を楽しんだり、ボートを住居にしたり、とたくさんの英国人とすれ違う。ゆったりしたフレンドリーな人が多く、クルーズの相棒である犬や猫を撫でさせて貰うこともしばしば。美男美女のカップルは、やはり美形のアイリッシュセッターを乗せていた。三匹の猫の住むボートには、「引退してやっと時間ができたから、小説の執筆、という長年の夢にチャレンジしてるよ」と、元気なおじさまと奥さまも。  色々な人がいる。
こんな時、私たちのボートは少し先の岸辺で待っていてくれる。オーナー夫妻も、犬の散歩をしている人やジョギングしている人までつかまえて、笑いながら話をしている。そういえば他のナローボーターの方にどう話しかけたらいいのか、初めモジモジしていると、上手な会話の始め方をさりげなく見せてくれたなぁ。なるほど、こだわりを持ってつけた船の名前や、どこを改造した、とか聞くと喜んで話し始めてくれるのね。 アンディとあつ子さんも、自分たち二人でナローボートの設計、工事まで全てしたというし、みんな愛船への思いは深いのだと、あらためて納得。なにしろ急ぐ旅ではなく、田園を好きなだけ楽しめる。  
 午後も四時を回ると、今晩停泊するポイントを探し始める。近くには必ず村と可愛いパブがあるので、周囲をぶらぶらしてからパブで、その土地のビールと気軽な食事、そして九時頃まで暮れない英国の夏をおしゃべりして過ごす。
オーナー夫妻は、「ここは◯◯が名物」「××のビールを試してみたら」と教えてくれると、どこかへふらっと消えてしまう。ゲストとの距離感はプロフェッショナルと思わせる。
朝は、朝食の準備の整う八時半まで寝坊を決め込んでも、早朝の散歩をしても。村のおしゃべり上手な住人を見つけられれば幸運だ。厩舎の持ち主は、話の楽しい人だった。足元には犬、肩には猫まで侍らせながら、馬や羊を気さくに見せてまわってくれた。

ボートに戻ると、朝食のおこぼれを期待して白鳥がデッキで待っている。

どこまでものんびりとしたナローボートの旅なのである。

 
 


 

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