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杉並の風
 
 愛犬ジローとの18年9か月
 
山崎 承一(S45 商)
 
19年前の春、家内が吉祥寺東急百貨店の屋上にあったペットショップで一目惚れしたのが我々家族とジローとの長い付き合いの始まりでした。
まだ生後2か月、別れた母親の匂いのする縫いぐるみを枕にして寝ていたジロー。
ほどなくテ-ブルの脚や柱をガリガリ噛んで我々を困らせながら、我が家の家族になっていきました。
 ジャックラッセルテリアは気持ちが強く躾けるには相当の覚悟がいると知り、生後6か月の秋に江古田にあった日本救助犬協会で最初の訓練を受けました。あんなに困ったジロ-だったのに、参加した犬の中から訓練士の目に留まり、なんとその場での優等生となったということは、間違いなく飼い方に問題があったようです。その後は“善福寺のジロー”という勇ましいあだ名を貰って小さいくせに肩で風切りこの界隈を闊歩していました。
若いころは小金井公園、野川公園までほとんど走って往復するくらい元気一杯でした。
勿論我々は自転車で伴走。
 私が大阪に単身赴任中、週末帰京の折に品川あたりまで来ると玄関で落ち着かない様子でジッと扉を見つめていたと家内に聞いていました。犬の超能力なのでしょうか。
数年間の単身赴任を終えて東京に戻った途端、それまでのジローの躾けは総崩れ。
早朝からのギャン鳴き、思い通りにならないときにやらかす室内でのこれ見よがしのマーキング行動などにほとほと困り果てて、8歳になってからではありましたが犬の心理を知り尽くしたトレーナーに出会い改めて週に一度のレッスンを開始。
 今になって思うに、トレーニングが必要だったのは甘い飼い主の私たちの方だったようです。
家内と二人で家を空ける時にはこのトレーナーの家で合宿生活に入りしっかりしごかれていたようです。
写真はその合宿中に仲間のワンちゃんたちと湘南の海に連れて行ってもらった時のもので、初めての海を背景に大型犬のなかで鍛えられ神妙に末席に並んでいます。
 
 
 
 右端の末席に 
   控えるのがジロー
先輩ワンちゃんに
  鍛えられるジロー 
初泳ぎで頑張るジロー  
その後、トレーニングの効果もあり7,8時間の留守番も自分のハウスで静かに待てるまでになり、家族の一員として平穏で楽しい毎日が続きました。
 16歳を過ぎても井の頭公園まで往復散歩するほど元気で、朝のラジオ体操に来られていた三田会のSさんとも良くお会いしたものです。
 そんなジローもいつしか歳を重ね、お別れの時が近づいてきました。
だんだん運動量も減り、最期の半年間は家の近くの散歩となりましたが、時にはバギーに納まり、時には健気にも力を振り絞るように我々と並んで歩いていました。
晩年、衰えていくジローの体調におろおろするばかりの我々を横目に、それまでと何一つ変わらずに淡々と現実を受け入れていたジローに多くのことを教わった気がします。
今年1月、冴えわたる晴天の朝、一筋の煙となって昇天したジローは18歳9か月18日の犬生を全うして命を終えました。

 最近カズオ・イシグロの「クララとお日さま」を読んで、謙虚で現実を素直に受け入れ、ひたすらご主人を思い任務を遂行した主人公クララ(AIロボット)がジローに重なり、改めてジロ-のことを思いました。
私も歳のせいか近頃、動物だけではなく草花に対しても生きとし生ける命を愛おしく感じるようになった気がします。ジローありがとう。
ジローの命は尽きてしまいましたが、ジローを愛した人々の中に今も生き続けています。                                             
 完
 

  

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