私は子供の頃から勉強は大嫌いでしたが、本を読むことだけは大好きで、今まで何とかやってこられたのもそのお陰ではないかと思い至っております。
今まで出会った数多くの小説家の中で、ただひとり私の心を鷲掴みにしたのが浅田次郎でした。
あと数年で世紀末という頃、書店入口近くの特等席に高く積まれていた直木賞候補作となった『蒼穹の昴』という難解な書名の分厚い上下巻を、私は半年以上も何故か触れようともしませんでした。ある日その本の前を通り過ぎようとした時、偶然にも帯広告が目に飛び込んできました。『この物語を書くために私は作家になった。― 浅田次郎』 不惑をとうに過ぎたアルコール摂取過剰のメタボ中年オヤジの私と、小説家になりたくてなりたくて少年時代から修練を積んでやっと文壇デビューを果たした遅咲き作家との必然的邂逅でした。上下巻で約800頁二段組みの大長編小説を数日で読破した後、『きんぴか』『プリズンホテル』など既刊の単行本を買い漁り、爾来、新刊の発売を心待ちする日々を二十余年続けてきました。
浅田次郎は1997年『鉄道員(ぽっぽや)』の117回直木賞、2000年『壬生義士伝』の柴田錬三郎賞をはじめ数々の文学賞を受賞し、2011年~2017年には日本ペンクラブ会長を歴任するなど、大作家としての道を歩んでいますが、百年後、二百年後も大衆から広く愛され続ける小説家であってほしいと願っています。
浅田次郎のどこが好きなのか個人的な思いを綴ってみますと、サービス精神旺盛なプロフェッショナルが巧みに言葉を紡いで書き上げた物語は何といっても面白いし、小説はエンターテイメントと認識しながらも純文学とは一線を画した質の高い文芸作品に磨き上げようとする作者の熱き思いは、零れ落ちる涙と共に深い感動を与えてくれます。
現在、我が家のリビングの特等席に浅田次郎コレクションが大切に収蔵されております。この1月末に待望の新刊『母の待つ里』が加わり小説78冊、エッセイ類22冊、四半世紀の歳月を経て念願の100冊に到達しました。
近刊では、『流人道中記』をお薦めします。流人となった大旗本青山玄蕃のたとえようのない生き方に心惹かれます。 |