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杉並の風
 
 川は流れる
原田 威夫(S28 経)  
 我が国は海に囲まれているから、川が県境になることはあっても 国境になることはない。ヨーロッパを旅する機会に、一つの大河が源流から海に注ぐまで いくつもの国を流れ 名前を変えるものもあることに気づきます。ドナウ川・ライン川はいくつもの国を流れるが、名は 変わりません。

 私の愛する川の一つは「モルダウ川」です。この川の名を知った切っ掛けは スメタナの管弦楽曲 交響詩「我が祖国」を聞いていた事です。いつの日かプラハの「モルダウ」「高い城」から源流へ「ボヘミヤの森」へ行ってみたい。
 1994年6月の夏 ようやく長い旅に出れるようになって、見知らぬ国チェコを訪れる事にしました。
 2005年秋には オーストリアの古都リンツから列車で東に流れ黒海に注ぐドナウ川を渡り やがて西に流れて北海に注ぐモルダウ川を渡って「ボヘミアの森」の源流の小さな街チェスキークルムロフを訪ねました。その後 下流のプラハに行き  第1交響詩の「高い城」(ヴィシュフラッド)の旧プラハ城にも登り 岸壁から「モルダウ」を俯瞰しました。             余談ですが プラハを離れる前夜、国立マリオネット劇場で人形劇モーツアルトの「ドン・ジョヴァンニ」を鑑賞しました。                    
  高い城ヴィシュフラッドの
町の朝
驚いたことに 指揮者はモーツアルトだったのです。最前列で幕開きを待ちました。やがて幕が開き モーツアルトが指揮台に立ちます。楽員が恭しく楽譜を台上に置く。いきなりモーツアルトは楽譜を握り潰して振り散らす。 「俺はモーツアルトだぞ!」大爆笑でオペラが始まりました。モーツアルトは31歳の時 プラハの音楽家に誘われ、その別荘ベルトラムカで「ドン・ジョバンニ」を作曲したのです。   
 2007年8月 私たちはヴェネチアの学校の夏季講座でトリエステに 滞在しました。一か月の受講の後 須賀敦子の「トリエステの坂道」の 世界を散策し、帰路は東ドイツを探訪しました。
 
 ライプチッヒからドレスデンに入り エルベ川河畔のホテルに泊まりました。対岸に立つ聖母教会は1945年の連合軍の空襲によって崩壊しましたが、その瓦礫を拾い集めて11年かけて再建し、2005年に 蘇りましたました。             
  実は 前半で述べたモルダウは 下流で エルベ川となってドイツの渓谷を流れ、ドレスデンでは川幅も広くなり、ハンブルグで北海に注ぐのです。ショスタコーヴィッチ作曲の「エルベ川」は 我々の世代はうたごえ喫茶でよく歌った唄ですね。
                                       
 
聖母教会から上流の
エルベ川を望む
第一次世界大戦の終結でロシア軍と連合軍の米軍がエルベ川河畔の街トルガウで出会い、両軍の兵士達は「青年は2度と戦場で相見えない」と誓い合ったというロシア映画で、ショスタコーヴィッチが作曲した歌です。

 一つの川が 中流ではスメタナが交響詩「モルダウ」を作曲し、下流では ショスタコーヴィッチが名曲「エルベ川」を作曲して 世界中で歌われる。  こんな豊な川は少ないでしよう。      (了) 
          



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