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杉並の風
 
 文楽を観に行ってみませんか
内藤 忠雄 (S52 工) 
 
 
 私は、中学生の頃より落語が好きで落語会へ通い、桂文楽、三遊亭圓生などの昭和の名人を聴いておりました。落語を聴いていると、歌舞伎の知識も必要となり、高校生になると歌舞伎を観たりもしました。「寝床」、「豊竹屋」など、文楽(人形浄瑠璃)を題材にする落語も聴いてはおりましたが、上方芸能のイメージが強く、文楽を観ることはありませんでした。40代になり、文楽ファンの知人からお誘いいただき、義太夫とはどんなものか一度聴いてみてもいいかという軽い気持ちで、誘いに乗りました。太夫が一人で何人もの登場人物の詞を語りつつ物語を進行させ、低く響く三味線がBGMのように流れ、その中で、操っている人間が目に入らず人形だけが動いて見える舞台に集中しました。床という張り出し舞台にいるので、太夫と三味線弾きも目には入りませんでした。文楽と歌舞伎とは重複する演目が多いのですが、それ以来、歌舞伎よりも文楽に行く機会が多くなりました。
   文楽の人形は、世界で唯一と言われる三人遣いで、人形の首(かしら)と右手を動かす主遣い、左手を動かす左遣い、脚を動かす足遣いの三人で一体の人形を操ります。その人形が、首や口の僅かな動き、手足の所作で、ときには哀れみを誘い、ときには艶っぽく、人間が演じるよりも感情豊かであると感じられます。人形を操る文楽では、役者では不可能な姿勢や動きもします。女形では、観客に背を向け、顔が横を向き背中をそらす後振り(うしろぶり)という動作で女性の色気を見事に表現できますし、演目によっては舞台を右へ左へと泳ぐように動き回ることもあり、見ごたえ充分です。歌舞伎役者は、美男が多く、その上お化粧をするにしても、それなりに年齢も重ねると顔にしわが出て、体型も変わってきてしまいます。その点、文楽の人形では、顔にしわも出なければ体型が変わることもなく、人形遣いが人間国宝になるほどのベテランになっても、人形のルックスには変化なしです。
  義太夫の言葉は親しみのない言葉も多いのですが、舞台の上または横には字幕が表示されますので、予め大まかなストーリーを調べておけば大体は理解できます。また、文楽を何度か観るうちに気付いたのですが、太夫は義太夫を語るだけではなく、その表情も千変万化し、見逃せないものがあります。三味線弾きも、三味線を弾くだけではなく、掛け声で舞台を盛り上げます。
  義太夫や三味線を聴きに行くのもいいでしょうが、初めての方には人形を楽しむことをお勧めします。今年の7月に人形遣いの吉田玉男さんが人間国宝に内定し、太夫と三味線弾きは一人ずつですが、人形遣いの人間国宝が四人になります。このチャンスに文楽を観に行ってみませんか?
 なお、これまでの東京公演は国立小劇場でしたが、国立劇場建て替えのため、12月公演が北千住のシアター1010になるなど、会場が変わりますのでご注意ください。




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