この「杉並の風」を目で今ご覧になっている皆さんは、所謂「暗闇(くらやみ)」を勿論ご存知ですよね・・・目の手術で眼帯・・・トンネルの中・・・停電で真っ暗な寝室・・・明かり一つ無い漆黒の外界・・・危険を感じて身体が強張り歩けなくなり言葉を発する相手も居ない闇世界・・・そう・・・急に一人ぼっちになってしまった孤独の恐怖・・・けれども本当にそれだけの認識でしかないのでしょうか・・・?
健常者にとって非日常の其処が、実は視覚を持たない方達には日常の世界なのですが・・・それでは「暗闇」は双方にとって相入れない別空間なのか・・・いや・・・もしかしたら却って「共有できる世界」なのではないか。或いは、視覚に限らずいろいろな五感と環境に頼りながらこの地球の上で連綿と生を営んでいる全ての人達が、心を開いて交流出来る「平和な世界」になるのではないでしょうか?
「Dialogue in the Dark」(DID)・・・「暗闇の中の対話」は、光一つ存在しないように設営された物理的空間(パビリオンやビルの一室など)の中に両者が入り、全ての人が視覚以外の感性を活かして其処に産みだされる種々の会話や相互扶助の交流・・・勿論自分の心との対話を含めて・・・を、「一つの同じ暗闇」で共有し合う活動なのです・・・相互に異なる立場(差別感)のままでの疑似体験ではなくて。このDIDが独特なのは、此処で或る変化が起こります・・・その場に居る全員が相互に対等な関係性を創り出してしまうのです。
『完全な暗闇に入り、自分の限界を感じ、住み慣れた世界から引き離されると同時に、自分との対話が始まる。突然フラストレーションが高まり、激しい感情の動きを経験するのか、自分自身の限界を感じるのか、または新しい感覚を発見するのか・・・、新しいアセスメントの場となる。そして自分の視力に対して謙虚に感謝する。たった一時間の経験だが、自分の中にいくつかの予期しなかった発見が生まれる』(創始者・ハイネッケ)。そして、体験が終了し明るい居場所に戻ると、暗闇の中で知覚した相互の多様性(個性であれ異文化であれ)を、「障害を能力」として、「異質なものを似たもの」として認める行動が、皆さんの中に見受けられるのです。
実はその空間には・・・暗くて見えないだけですが・・・普段の日常が広がっています。下記は1993年ウイーンで開催されたDID特別展の情景を報じた当時の日経新聞記事の一部です。
『・・・盲人用の杖を頼りに歩き始めると、道路の雑音や小川の流れる音を聞き、石畳や芝生、砂などの感触の違いを足の裏で感じ、階段や橋を注意深く越え、石像や市場の屋台の野菜などを手で触る。最後は真っ暗なバーで一杯やりながら感想を語り合う。視覚を失うことに戸惑い、他の感覚が突然敏感になることを自覚しながら、盲人の世界の深さを知ることへの驚きだ。・・・』(ウイーン支局発)。規模にも依りますが、日本では、鳥の囀りや土の匂いや森の温もり・・・更には足許からは枯葉の擦れる音や小枝を踏む音などを感知<
できる設営もあります。
DIDは1988年にドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏(1955~)の発案で生まれ、現在は世界47カ国以上で開催され、900万人を超える人々が参加、日本では1999年11月の初開催以降約24万人が体験。現在「(社)Dialogue Japan
Society 代表理事:志村季世恵」と「Dialogue in the Dark Japan 代表(創設者):志村眞介」のご夫妻(著作多数:写真添付)が、ドイツSocietyからのLicenseに基づきDIDの他に「D.with
Time, D.in Silence」のvariation二種などを加え、「相互理解と平和のための新しい対話の在り方」として「対話の森」と名付けた会場を東京都港区と新宿区に常設し、更には全国にも趣向を凝らした活動を展開しています。来場者は小学生からの個人に始まり、事業経営者の集団や一般企業のカルチャーや組織内コミュニケーションなど改善・研修の場として広く活用されています。更なる詳細は下記をご参照下さい。
『東京竹芝/ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」』
https://taiwanomori.dialogue.or.jp
ご夫妻とは、去る2月中旬にKeio Welcome Net(「杉並の風」で2020年11月に紹介済:慶大在学海外留学生支援のOB/OG団体)最上沙紀子幹事から紹介のご縁で、昼食を共にしながら上記諸情報と現況を教えて頂きました。日本で既に二十有余年の活動があり主要メディアでも紹介され、且つJR、清水建設、ベネッセ、文科省、厚労省、東京都・・・などからの協賛と後援などありながらこの活動を全く知りませんでした。今回は私自身が実体験した報告ではありませんが、ご夫妻のお話と著作を拝見し、形容字句一部借用などのご了承を得て、取り敢えず概要を寄稿させて頂きます。会員諸兄姉のご関心を頂き、また、ご感想などお聞かせ下されば幸いです。
以上(2024年3月) |