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 地方国立大学大学院での 4 年間の教授生活を振り返って
谷口 成伸 (S57 経)
 
2020 年 4 月、福井県にある国立大学法人福井大学に新設された大学院「国際地域マネジメント研究科」の教授として新たな生活をスタートしました。私はそれまで慶應を卒業後、60 歳の定年退職まで総合商社(三井物産)に勤務し、まさか大学の先生になるなど夢にも想像したことがありませんでした。それも国立大学の大学院でいきなり「教授」として受け入れてもらうなど考えてもみなかったことでした。ところが、新設された大学院は基本的に社会人を対象としグローバル人材を育成する専門職大学院で、グローバルビジネスを語れる実務家教員が必要とされ、最終的に日本貿易会から私に打診がありお引受けさせて頂くことになったものです。就任するまでは文科省の大学院設置審認可、私の教授としての適性審査等のプロセスを経て決定されましたが、予想もしなかった展開に人生とはなんだか面白いものだな、と感じた次第です。  
    
 

福井大学
 ところが、就任した 2020 年 4 月は新型コロナ禍が猛威を振るい始めた真只中であり、キャンパスには学生の姿が全くなく、華やかな若い学生たちに囲まれた教授生活を想像していた私には冷水を浴びせられたような感じでした。与えられた研究室でただ一人、講義の準備をすることになるわけですが、いきなりオンライン授業をすることになり、それまで全く経験が無かった者として戸惑う事ばかりでした。コロナ禍で大学同僚たちによる歓迎会や親睦会などは一切なくまた県からは県外に出たものは戻ってから 2 週間の自宅待機を義務付けられることとなり、最初のゴールデンウィークで杉並の自宅に帰る夢も打ち砕かれました。
斯様な中スタートした教授生活でしたが、時間の経過とともに少しずつ慣れ、オンライン授業も板についてきたころ、大学からいきなり紀要論文集に載せる論文を何か書いてくれ、との依頼があり、慶應での卒業論文以来論文には縁のない生活をしてきた者として大変戸惑いました。私の研究専門分野が特にあるわけでもなく、何をテーマとして書けばよいか途方にくれましたが、三井物産時代にカイロ事務所長として、またカイロ日本人会会長として現場で経験した「アラブの春」とその背景にある「ムスリム同胞団」についての私なりの見解を述べたものを提出したところ紀要論文集に採用されることになりました。論文の書き方も正しく理解できておらず、私も谷口ゼミを主催して学生たちの論文(最終報告書)の指導をしなければならないこともあり、周囲の同僚教員たちも殆どが博士号や少なくとも修士号を持っていることもあり、実務家教員といえども慶應から頂戴した経済学学士だけでは肩身が狭く、時間的拘束が少なく学費も安い放送大学の大学院で修士号を取得しようと2021 年 4 月に入学し、過去 3 か国に駐在経験がある ASEAN の経済についての論文で 2023年 3 月には修士号(学術)を取得することができました。
 
 国立大学の教員の定年が 65 歳到達後の 3 月末と定められているため、本年 3 月に 4 年間の教授生活に終止符を打ち杉並に戻って参りましたが、上述のように戸惑うばかりのスタートから最後は一応それなりの教授らしい日々となりました。1 学年の定員が 7 名という小ぢんまりとした研究科で、谷口ゼミも毎年 1 名~2 名を受入れて指導し、第 1 期生から今春修了した第 3 期生まで計 5 名のゼミ生を送り出しました。ゼミ生たちの海外実地研修先を開拓したり、研修期間中に現地訪問して激励や相談に乗ったりしました。5 名それぞれが将来の海外事業を率いる中心的人材になるものと期待しています。内、1 名はマレーシア人留学生で大阪の上場企業に就職しましたが、福井にいる4 名が、私が福井でやり残したことの一つである永平寺参詣を福井での最終日に企画してくれささやかな送別会も催してくれました。この 5 名はそれぞれ私にとっての宝物だと感じています。   
 
  ゼミ修了生との
   永平寺参詣
 
 
  
ゼミ生指導以外にも、地方都市のグローバル化を支援するため、私の知人を何人か講師として招き、研究科主催の講演会を毎年開催し、また社会人のリカレント教育の一環として私自身が講師として教えるなど学外に向けた活動も行いました。プライベート面では、もともと好きな温泉巡りをしました。石川県加賀温泉郷など福井県外の近隣 6か所を含め、最終的にちょうど 50 か所の日帰り温泉三昧をすることが出来ました。2022 年年末には福井交響楽団とともに「第九」の合唱に参加。また、越前焼祭りには毎年出掛け素敵な越前焼を買い求め、越前そばのそば道場でそば打ち体験をするなど、4 年間の単身赴任生活もそれなりに楽しむことが出来ました。また、冬になると大雪に見舞われ、紀州の南国育ちの私としては苦労したのも今となっては良い思い出です。  
  大学院修了生/現役生、
  先生方による送別会
              

      ふくいの第九
         
         
                 初めての冬の大雪
 心残りであるのは、ちょうど私が福井を離れる前日の 3 月 16 日、悲願の北陸新幹線が敦賀駅まで延伸し、これからの福井の変化を自分の目で直接見ることが出来ないことです。もともと私としては縁もゆかりも何もなかった福井ですが、4 年間貴重な経験をさせて頂いた者として、新幹線延伸でどの様に発展していくのか、遠く離れた杉並の地からその変化を見届けたいと思っています。
 
 
 



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