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 「赤毛のアン」の家をカナダの最果ての島に訪ねる

松江 裕二 (S57 経)
 
プリンス・エドワード島のブライト・リバー駅で期待に目を輝かせながらマシュウ・カスバートさんの到着を待つ少女。ノバ・スコシアの孤児院からもらわれてきた赤毛の女の子・・・ L. M. モンゴメリの不朽の名作、「赤毛のアン」の一節である。幼い頃に胸を躍らせながら読んだことがある人、お子さんやお孫さんに読み聞かせたことがある人も多いことだろう。また、NHKの連続テレビ小説「花子とアン」をご覧になった方もいるだろう。
 「赤毛のアン」は、原作名を”Anne of Green Gables”という。この世界的に著名な小説は、原作者のモンゴメリが幼い頃に過ごした、プリンス・エドワード島での思い出をモチーフにした創作であるが、これらの地名は全て実在のもので、アンがもらわれてきて、暮らすことになった「グリーン・ゲイブルズ」と呼ばれる家も存在する。もちろん、グリーン・ゲイブルズは小説のヒットの後に観光用に建てられたものであろうが、外観や中の造りは小説の描写そのもので、アンの暮らした部屋などもあり、まるで赤毛のアンが実在の人物であったかのような錯覚を覚える。
 アンが産まれたノバ・スコシアは、カナダの北東にある州の名前で、州都はハリファックスである。漁業の盛んなこの州から、アンはカスバートさん兄妹の住むプリンス・エドワード島のアヴォンリー村に、養女としてもらわれてきた(本当は、カスバート兄妹は男の子が来ると思っていた)。プリンス・エドワード島はノバ・スコシアのさらに北にある、言わばカナダの最果ての島であるが、島全体が小さいながらもプリンス・エドワード・アイランド州という、10州あるカナダの州のひとつである。アンの言葉を借りるなら、「世界で一番美しい島」でもある。
  聡明で空想好きなアンは、実に豊かな表現力でグリーン・ゲイブルズの周囲の風景を描写していく。「きらめく湖」「お化けの森」「スミレの谷」「恋人たちの道」「黄金色の嵐のような、風に揺らいでいるキンポウゲ」「眩しいほど野バラの咲き溢れる小径」。スミレやキンポウゲや野バラは見つけることができなかったが、それらが咲き乱れる様子は容易に想像できた。きらめく湖やお化けの森は「きっとこれだろう」というのを発見できた。湖は水面が美しく煌めいていた。
  私がプリンス・エドワード島を訪れた理由は、単に赤毛のアンの「聖地」を訪れてみたいという物見遊山であったが、訪れてみて、その豊かな自然と、何も飾らない風景に触れて、アンの豊かな描写に感動を覚えた。「世界で一番美しい島」は確かに素晴らしかったが、アンの曇りのない瞳を透してこそ「世界一」となり得たのであろう。何気ないものに美しさを見出すことができる感受性、その研ぎ澄まされた感性こそが人生を豊かにしてくれるのだと再認識した。私自身も人生を豊かにするために、感受性を大切にしようと小さく心に決めた。
 
 



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